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下手の横好き語学学習日記


by telescopio

ミトコンドリア・イヴ

ミトコンドリア・イヴ_d0018759_0401364.jpgこれは、前から気になっていた本。
『イヴの7人の娘たち』
著者はオックスフォードの人で、ここでいう「7人の娘」というのは、現在のヨーロッパ人の母系先祖となる7人の女性のことである。
実はちょっぴり原書で読んでみたい思いがあり、邦訳を読むには覚悟というか決意が必要だったのだけど、日本語でも難しい、遺伝関連の用語を、辞書をひきひき読む苦労を思い、ついに妥協した。

さて。
世間で言われる「人類のDNAをたどっていくと、アフリカの一人の女性にたどりつく」という説は、かなりの誤解を招いている。
つまり、たった一人の女性から全ての人類が生まれたかのように聞こえるが、これは、そういうことではない。
この女性と同時代に生きた女性は複数いて、彼女(ミトコンドリア・イヴ)がたった一人の女性だったのではない。ただ、その時代から現在に至る間に、他の女性に由来するミトコンドリアは途絶えてしまったという、ただそれだけのことである。
ミトコンドリアのDNAというのは、母から娘へ、つまり女系を通じてのみ、受け継がれる。
ミトコンドリア・イヴに娘と息子がいたとして、息子は彼女のミトコンドリアDNAをもらってはいるが、それを彼の子孫に渡すことはできない。つまり、男子しか次の世代を残さなかった場合、母のミトコンドリアDNAはそこで途絶えることになる。が、すべての遺伝子が途切れたわけではない。



息子も両親から半分ずつ遺伝子を受け継ぎ、その息子は4人の祖父母から1/4ずつ、その息子は...というように、数世代前の女性先祖とも、つながってはいる。
ただ、ミトコンドリアは基本的に正確な母のコピーであるのに対し、他は両親から半分ずつ受け継ぐため、片方の親と共通する部分も半分しかない。
ミトコンドリアは組み換えがなく、突然変異の起こる度合いも少なく、それが起こる頻度(何世代に一度起こるか)も判っているので、これをたどっていくことが容易である。
もし、私の代で突然変異が起きたとすると、私に複数の娘がいた場合、彼女達全員がその変異を受け継ぐ。
おそらくその娘も。次に突然変異が起きるのはずっと後の世代である。しかし、私の姉妹にはその変異が起きていないわけだから、彼女達の娘にも当然、私に起きた変異はない。そして数世代を経て、私の姉妹に連なる系統で突然変異が起きたとき、それは私の子孫には関係のないことなので、その下の世代では、さらに差が開いていく。
だから、ミトコンドリアDNAの塩基配列の違いを調べると、共通の母系祖先がどのくらい前にいたかが判る。
このようにして、現在のヨーロッパ人につらなる母権先祖が7人いることが解明されたのだが、もちろん、この7人の前にも女性はいたし、彼女達の同世代にも、もっとたくさんの女性がいた。姉妹もいたかもしれないが、この女性達の姉妹から始まる子孫は、どこかの時点で娘を持つことなく、そのミトコンドリアの伝承をとだえさせたわけだ。
だから、ミトコンドリア・イヴの別称でラッキー・マザーというのがある。彼女は女性の子孫が現在までとだえなかった、実にラッキーな母親であったので。
そして今から数十、数百世代を経たとき、もしかしたら、私以外の女性から発した女系の子孫が途絶えるかもしれず、そうなったら、私が数十、数百世代の後の、ミトコンドリア・イブ=ラッキー・マザーになるわけだ。私の前に、何人の女性がいたかは重要ではない。
こう考えてみると、ミトコンドリア・イヴというのが、特別の存在ではないことが判る。

もうひとつ興味深いのは、ヨーロッパにおいては、ネアンデルタール人というものの化石もみつかっているが、現在のヨーロッパ人には、ネアンデルタール人の子孫はいないということ。
つまり、ネアンデルタール人は、絶滅したのだ。今のヨーロッパ人の祖先はクロマニヨン人のほうである。
同様に、昔社会科でならった北京原人や周口店上洞人なんていうのも、今に伝わる子孫を残していない。
現在の我々の先祖は、すべてアフリカ発祥である。
各地の原人と、今の私達につながる先祖とが、どの程度へだたっていのかは謎だが、通婚によって得られたはずの子孫がまったく残っていないことを考えると、おそらく彼らは繁殖できないほどに遠い種だったのだろう、というのがこの本の著者の考え方である。
ラバは馬とロバの子どもで、ラバ同士が結婚しても、ラバの子を産むことはできない。彼らは繁殖能力がなく、ラバを作るためには、いちいち馬とロバを掛け合わせるしかない。
(※この本では、このケースの説明として、馬の染色体は64本、ロバは62本で、かけあわせたラバは63本と奇数になるため、減数分裂ができないから、と書かれているのだが、それはちょっと違うというか、言葉が足りないのでは?もともと染色体が奇数の種も、珍しい例ではあるが、いる。しかも哺乳類。奇数であることが鍵ではなく、減数分裂でペアを組む相手は大きさが同じでないとダメで、馬とロバではそれが違うのでうまく減数分裂できない、というような説明が妥当らしい。体細胞では、ちょっとくらい違っても大丈夫なのでラバの固体は生きられるけれども、生殖細胞は減数分裂が必要で、それが神経質?なため、卵子や精子ができないのだそうだ)
現生人類の祖先と、他の原人達も、多分そういう関係だったのだろう。両方の血を引く子を得られたとしても、その子には繁殖能力はなかったと、。
実にわくわくする物語ではありませんか。
非常に面白い本なので、ぜひ、ご一読を。
by telescopio | 2010-11-21 01:29 | 読書