下手の横好き語学学習日記


by telescopio

アラブ動乱関係本

何か世間を驚かすような事件の後は、玉石混交の解説本がわーっと本屋に並ぶのが普通だけど、一連のアラブ動乱関係はなかなか出てこない。
識者の間でも予想外だったようだし、現在進行形すぎで先の予測ができず、そのジャンルで一定のポジションにある人はあまり大きく予測を外したくないだろうし...という感じだろうか。
少し出そろってきたところで、とりあえず感想を。

d0018759_18483057.jpgまずは何じゃコリャ系。
『55分で中東の激変の「なぜ?」がわかる本』。タイトルもひどいけど中身も負けていない。
まず紙面がスカスカ。すごく急いで作った感ありあり。そして各国の現況みたいなのをザザーッと書いてあるけど、あまりに基本的なことすぎて、このレベルのことを知らない人が今のアラブ情勢に関心を持つことはあり得ないという仕上がり。職場等で軽い話題にのぼったとき、シリアとリビアの違いも判らなくて恥をかいた人が間に合わせに読むとかならいいかも。

d0018759_18481485.jpg次も似た感じだけど...。
『ニュースがわかる中東・アフリカの紛争地図』。
これは上記よりはデータがいくらか充実してるかな。近年あまり話題にならない西サハラ、ソマリア、エチオピアなどの他、中国や北朝鮮情勢にふれる部分があったり、ムスリム同胞団の系統図なども盛り込み、間に合わせ感は低い。
しかしこの表紙はなんとかならなかったのか。



d0018759_1911243.jpg次は『中東・イスラーム諸国民主化ハンドブック』。
ハンドブックというだけあって、読み物ではなく、事実関係の列挙。政党はどんなのがあって、選挙はどういう法律に基づいてどう行われて、議会はどういう構成で...というのが淡々と国別にまとめてある。
関係の記事を書いたりする人が、常時手元に置いて確認するような使われ方を目指したものと思われる。当然別に面白くはない。
中東地域のイスラーム諸国というくくりなので、トルコも載っている。

d0018759_197359.jpgこちらは中東関係の新書ではおなじみの宮田律さんの本。何人かいる「中東といえば」系の人の中では、今回の件で本を出したのはこの人が最初じゃないだろうか。勇気あると思う。よい意味で。
こんな事態誰も先の予測なんかできないし、どんな偶然が結果を左右しないとも限らない。予測が外れたって経歴に傷がつくわけじゃないし、判りませんでもかわまないから、普段識者として通ってる人には概説してもらいたい。
5月に出た本で「はじめに」は4月と書かれているから、このときとはやや状況が変わってきている。シリアの状況についてはほとんど言及しておらず、もしアサド政権が倒されることがあれば、という形で起こり得る危機について触れている程度。

d0018759_19203649.jpg次にちょっと毛色の違う本。
『現代思想4月臨時増刊号 アラブ革命』。
けっこうたくさんの人の寄稿(?)と座談会的なもので構成。時期的なこともあり、エジプトとチュニジアが焦点。
特段の意識合わせをしていないと思われ、論調はさまざまだけど、それが良いともいえる。
普段お金を払って読んでもらう立場でない人も多いのだろう、全体的にアカデミックな書き方が多く、基礎知識があることを大前提としているのかちょっと難しいし、正直かなり読みづらいものもある。興味のない人には読めないこと請け合い。
でも素人にとっては新しい発見も多く、当然ながら読みやすさ優先では取りこぼしもあるんだな、と思わせる。

d0018759_19315033.jpg読みやすくて納得も行ったのがこれ。
『中東民衆革命の真実』。まあ、タイトルはなんだけど。
これは著者が特派員として暮らしたことのあるエジプトに的を絞っている。そして最初から「チュニジアの革命が起きたとき、エジプトには影響しないt思った」と言い、なぜ予測が外れたか、それを考えることで見えてくるものがあるのではないか、という切り口で入っていく。
つまり、著者が何を根拠に「エジプトで革命はおきない」と思ったのか、その根拠としたものが変化したのであればそれはなぜか、というふうに。これはなかなか面白かった。
特に今回の革命を主導した青年層と、旧世代との間にあるギャップ。旧世代が今回の革命に抱いている違和感を分析したあたりは秀逸。
判りやすすぎる話は少し差し引いて考えなければと思いつつ「いやほんと、そうだよね」と、エジプト人ではないけれども旧世代人の私なんかは何度も膝を打った。
この本はオススメ。

思うに、革命がチュニジアだけで終わっていたら、失礼ながら、それほど世間の関心をひかなかっただろう。
もしエジプトだけだったら(あるいはエジプトどまりだったら)ムバラク体制のあれやこれやを解説する本がたくさん出たかもしれない。
でも、その後のドミノでは、どんどん事情の違う国がまざってきて、しかも政府が国民に銃を向ける異常事態が各地で発生したので、皆さん絶句してしまった。
長期独裁政権というのは、この地域ではむしろ一般的だから、同じ不満をどこの国の人も持っていて不思議はない。でも、どこの国でも、それだけが問題だったわけではない。
もし今改革を叫んでいるすべての国で政権が倒れたとすると、その後各国が進む方向はバラバラになるだろう。
そして対外的にも、各国の世界情勢における位置がかなり違う。資源のあるなし、アメリカの利権とのからみ、アラブ諸国内での位置。全部違う。それがつまり、外国の干渉がどの程度入ってくるかの違いを招き、それを受け止める国内の事情もまた違う。
それをまとめて「アラブ動乱」として解説しようとしても、それはやっぱり難しいよね、確かに。
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by telescopio | 2011-07-24 19:47 | 読書