人気ブログランキング | 話題のタグを見る

下手の横好き語学学習日記


by telescopio

文字と妄想

文字と妄想_d0018759_025445.jpg旅行すると実感することだけど、アジアは個性豊かな文字の宝庫ですよね。そのアジアの文字について、実際の字形を示して、判りやすく解説した本が去年出た。カラーページも多いし、眺めるだけでも楽しい、おすすめの一冊。
文字で見ると、欧州は、大きく括るならラテン文字とキリル文字の二種類だし、それ以外の地域でも、歴史的にはともかく、アルファベットを受け入れて現在使用しているのが、ほとんどではないだろうか。
その点アジアは、どうかすると国が変わるごとに文字も変わるわけで、旅行者にとっては大変でもあるけれど、その国の第一歩のイミグレで、見慣れない文字と出会うのは楽しい。
成田や関空で、日本語の他に、簡体字・繁体字両方の中国語とハングルが併記された案内を見るとき、西洋人は最初の「異文化」を感じていることだろう。

現在アジアで使われている文字は、大きく分けて「インド系文字」「アラビア文字」「漢字系文字」「ラテン・キリル文字」がある。
インド系文字というのは、インド本国やバングラデシュ、スリランカで用いられているたくさんの文字はもちろん、タイ文字、チベット文字、クメール文字、ビルマ文字なども含む。もとをたどれば、紀元前3世紀のアショカ王の時代の「ブラーフミー文字」にいきつき、この文字を共通の祖先として、各地に広がっていく中で、独自の変化をしたものだという。




タイ語を勉強した人は知っているだろうけど(私は勉強したことないですが)タイ文字には、現在ほとんど使われていない文字や、現代タイ語では同じ音を表す文字がいくつもあったりする。これは、タイ文字がサンスクリットを書き表せるように作られているせいで、クメール文字や、近隣の文字にも似た現象があるらしい。この本には、元のブラーフミー文字と、現在のいくつかのインド系文字の対照表も載っているので、じっくり見比べてみると大変面白い。
アラビア文字は、ご存知のとおりのクネクネした文字で、アラビア語以外のいくつかの言語(ぺルシャ語、ウルドゥー語等)も、アラビア文字に少数の独自の文字を加えた文字体系で、書き表される。書体の変遷は、それだけで本一冊書けそうな分野だけど、完結にまとめられている。
漢字系文字には、派生漢字と擬似漢字があり、日本の平仮名・カタカナは漢字を元にして変形させた文字だから、派生漢字の仲間に入る。
擬似漢字というのは、西夏文字、契丹文字等、周辺民族が自分たちの言語を表記するために、独自に考案して用いた文字で、漢字を知らない人が見たら、これも漢字と思うことマチガイナシの、漢字に似た雰囲気をもった文字。ただし、見た感じが似ているだけで、字形や構成要素などは全く異なるものが多いらしい。

話はそれるけど、この本を読んでいて思い出したこと。
日本の五十音図の文字の並びは、古代インドと同じ配列が使われているというのは有名だけど、50音図が普及する前は、仮名の並びは「いろは」が主流だったはずだよね。
その「いろは」について、ファンタジーとしては面白い説が、大真面目に出版されたことがあったっけ(といっても版元は「ノストラダムスの大予言」の会社だったか、真面目な本を出すところではなかったが)。覚えている方、いるかな?
いろは歌は、全ての文字を一度ずつ使って読まれた五七調の歌で、意味もきちんと通るし、考えた人はすごいなぁと思うけれど、この歌を7文字ずつ区切って書くと
 いろはにほへと
 ちりぬるをわか
 よたれそつねな
 らむういのおく
 やまけふこえて
 あさきゆめみし
 えひもせす
となり、この各行の最後の文字をとって続けると「とかなくてしす」。
昔は濁点は書かないものだったから、点を補って読むと「とがなくてしす=咎なくて死す」と読める!という話。
その本の著者は、これは「いろは」の作者が、無実の罪で殺される無念を詠みこんだものだ、という大胆な説をたて、作者について、何やら荒唐無稽な検証を試みていた。
しかし、この「咎なくて死す」は昔から知られていたことで、近松門左衛門も四七文字を赤穂浪士の四七士に重ね、彼らに罪はないのに!と、人形浄瑠璃でモチーフにしたほどのもの。文字を元に、妄想を膨らませてここまで!という読み物としては楽しかったけど、ああいうの、本気にする人がいるからなぁ。
「いろは」の作者が、七文字区切りで別の意味が読めることを知っていたかどうかは謎だけど、もしも意図したものだとしても、むしろ「罪を犯さずに一生を終える」という、仏教の?理想を詠みこんだものというのが、まあ、常識的な線らしい。
文字の世界も奥が深いなぁ(強引な結論)。
by telescopio | 2006-03-18 01:09 | 読書